2012年の始めに立てた目標の内、完全に実現したのは「クロールが泳げるようになる!」という目標だけであった。
1年間の間、毎週ちんたら練習していただけであったが、1年の終わりには、「イアン・ソープ風の」と自分が信じるフォーム(笑)のフォー・ビートのキックで25メートルプールを何とか往復できるようになり、泳げない大人がゆったり泳げるようにと考案されたという
トータル・イマージョンと言うツー・ビートの泳法では、もう少し長く泳げるようになった。
何もないよりはましだが、年の内で本当に実現した目標がクロールだけと思うと、何ともしょぼい。
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自分にとって2012年を通じての最重要の目標は、やはり「思考の抽象度を上げる」と言うことだったと思う。「思考の抽象度を上げる」とは何とも抽象的な目標であるが、何故かこれを身につけられれば色々な問題が一気に解決するように思えたのだ。
「思考の抽象度を上げる!」。この目標を忘れないよう、自分のPCを立ち上げるパスワードを「Chushodo!」と設定していたくらいです(笑)。こうしておけば、毎日PCを立ち上げたり、スクリーンセーバーのロックを解除するたびに、この言葉を自分に言い聞かせ、常に自分が思考を抽象化する方に努力しているかを反省することになる。
でも、1年を振り返って見て、目標を山の頂上だとすると、やっと裾野にたどりついただけの自分がいる。ブリュッセル方言では、「まだ旅籠屋も出ていない(On n'est meme pas sorti de l’auberge.)」と言うところだろうか。
さて、こんな目標を掲げることになった直接のきっかけは、2011年夏に読んだ苫米地英人さんの本「
すべての仕事がやりたいことに変わる―成功をつかむ脳機能メソッド40 」で、「思考の抽象度」と言う言葉に出会ったからだった。(
2011年7月23日のエントリー)
でも、もっと根本的な理由は、
前回のブログエントリーの最後の方に初登場した、同僚のサイトーさんである。
サイトーさんは日本の提携先から弊所に出向してきた人で、駐在してから数カ月もたたない内にブレインのスマートさで弊所のベルギー人たちの間で一躍有名になってしまった。ベルギー人たちに認められるためには、凡人であれば語学力が大きく作用すると思う。でも、サイトーさんはとりわけ語学が達者と言うわけではない。でも彼が言葉少なに言うことが、人々のレベルをはるかに超えているのでぐさっと胸に刺さるのだ。
出向して半年たった時、上司のロニーが、しみじみと、
「サイトーは、前任の出向者が4年たってもできなかったことを半年でやっちまったな」
と言った。そんなことを言われるような前任者にはつくづくなりたくないなあと思うが、仕方がない。
サイトーさんは向かいの机に座っているので、ほとんど一日中いっしょにいて、彼の電話の一言一句を聞いていたり、一緒に会社を訪問したりするのだが、2年たった今でも、ほとんど毎日が感動と驚きの連続である。
頭脳が鋭くて回転が速い人はこれまでも周りにたくさんいた。でも頭の回転が2倍速とか3倍速の人であれば、自分でも追って行ける。だから、感心することはあってもびっくりすることはない。サイトーさんの場合はすこし違う。もちろんスピード感はある。そして、一気にバサッと切り捨てて、導く結論が説得力があり、適格でもある。でも、その持って行き方に、速さだけではなく、一つの次元から別の次元にワープするような不思議な飛躍があり、それが独特なのだ。恐らく同僚たちが強い印象を受けるのは、そのためではないかと思う。
「この飛躍は何だろう」、ずっと考えていた時に、前述の苫米地英人の「思考の抽象度」と言う言葉に出会って「これだ!」と気がついた。
多くの場合、あるひとつの問題を誰かから相談された時、自分の場合、相手と同じ抽象度の次元にとどまるように気をつけながら話すことが多いと思う。それは、自分のある種の「優しさ」でもあるし、同時に弱点でもあるように思う。
もちろん、そこで行き詰ると、頃愛を見ながら、角度を変えたり、少しずつ抽象度を上げたり色々試みる。でも相手の抽象度が低いとそのペースに巻き込まれてしまい、泥沼の中を一緒に這いずりまわるような思いをすることがあるのだ。相手はさんざん話した後でカタルシスを感じるかもしれないが、結局何の解決にも行きつかない。そして私自身はどっとエネルギーを失っている。
ところが、サイトーさんに何かを相談すると、たとえそれが日常的なことであっても、一気に会話のレベルがというか、抽象度が強引に数次元上がるのだ。すると、こちらもつられて自分の抽象度を上げざるをえない。お陰で、サイトーさんに話す前に、どう話そうかと考えている時に、知らず知らずに抽象度が上がるので、相談する前にあるていどは自分で問題が解決できてしまうようになったくらいだ。
お客様と話す時は、サイトーさんも、「これは要するに、こう言う問題と言いかえることもできますね。その前提でさらに考えると・・・」てなことを言いながら、「これから話の抽象度をちょっと上げますよ〜」と言うサインを送ることがある。でも同僚同士の会話では前置きなく数次元も上がるので、スピード感があるし、解決不可能に思えた問題があっという間に整理されてしまうので、ほんとうにびっくりするのだ。
抽象化の過程は、不純物をふるいにかけ、取り除くための網の目をどう設定するかによって全く違ってくる。網の目は、人によってまったく違う。サイトーさんについてすごいと思うもう一つの理由は、彼の抽象化の網の目が、彼個人の卑小な目標ではなくて、私たちのいる部署や、ファーム全体、グループ全体の「究極の目標」にそって設定されているからだと思う。
サイトーさんは、年がら年中ほとんど抽象的なことしか話さないと言っても良い。個人の感情とか、社内政治とか、誰それの噂話とか、今日何を食べたとかの具体的な話は全く出てこない。彼の抽象度の宇宙の網の目は本当に詰んでいるので、そう言う不純なごみみたいなものは完全に除去されてしまう。だからサイトーさんとの会話は、純粋な宇宙空間でテニスをするみたいなものだ。不純物を取り除いた宇宙は、本当にクリーンなので、球がものすごい速さで飛び交うし、太陽の光が本当に強くとどく。
太陽の光とは「究極の目標」ということだ。