林貞年による催眠誘導の理論と実際がコンパクトにまとまった内容の濃い良書。ラポール、アンカーなど、
NLPの概念と手法がかなり引用されている。
アマゾンの書評ではプロの催眠療法士も素人も、この本に書かれているテクニックやコツを使ったら本当に催眠誘導ができてしまったと言って絶賛している。でも他人に催眠誘導することにあまり興味のないわたしには具体的な技法よりも、催眠術の限界や心の性質を明かす次のような記述に心が惹かれる。
ミルトン・エリクソンのように相手の無意識に浸透する天才で、相手の意識がはっきり気づかない内に催眠をかけることのできる場合がある。しかし、そのためには催眠をかけられる者の無意識が催眠をかけられることを承知していることが前提だと言う。ベース・サジェスチョンがされていると言うこと。だから道でバッタリ会った相手に瞬間催眠術をかけられると言うことはありえない。
催眠術の暗示により無意識が幻覚を起こす場合でも、さらにそれより深い無意識は自分の幻覚について知っている。この深い無意識には催眠術などたちうちできない。だから、「催眠はその人の中にあるものを引き出す技術です。」
最後の章では、
NLPではおなじみの意思とそれに反する心のブレーキのメカニズムを「うつわ」という日本的な概念で見事に言い表している。例えば、人間は自分の「うつわ」以上のものを得ることはできない。「うつわ」以上のお金を得ても、すぐ出て行ってしまうし、逆に不幸になってしまうこともある。金持ちには金持ちのうつわ、大スターには大スターのうつわがある。だから、願望をかなえようとすれば、自分の「うつわ」から変えていかねばならない。「
マーフィーの法則」はこの部分については詳述していない。そして、マーフィーの法則が単純さを売り物にしているだけに力強いのに対し、林貞年は「うつわ」を広げるのは容易ではないと言っている。
「社長になりたくて催眠のイメージを利用した人がいたとします。
彼は立派な社長室の中で高級なスーツを着て、デスクの上に足を乗せているところを毎日イメージしました。このイメージが彼にとって『うつわ』の拡張につながっていれば、社長としての『うつわ』は広がるでしょう。
でも、そのイメージがどれだけ鮮明だろうと、どれだけ臨場感を伴おうと、それが彼自身の『うつわ』の拡張につながるものでなければ意味がないのです。ようするに、(・・・)彼自身の状況と積み上げられた幼い頃からの心の性質が問題なのです。」(p.184)
著者は、「うつわ」を広げるイメージを自己催眠により無意識にインプットすることにより、「うつわ」は飛躍的に拡げることができるが、日常の心がけによっても拡げることができると言っている。
「人を嫉まず、潜在意識に預けたことは心配せず、小さな幸せを大切に実感し、繰り返しと言う潜在能力を念頭において、否定的な態度や言葉を使わず、肯定的な態度や言葉で日常を過ごす。心の成長を頭中において、視野を大きく持つ。すべてを自分が望む『うつわ』を拡げるための手段として心がけるのです。」(p.206)
林 貞年 著
催眠誘導の極意
現代書林 998円