昨日、2016年3月22日火曜日は、こんな風な1日でした。
朝、6時過ぎに起きて、亭主のグリと一緒に7時前にEU機関の多い地域にあるジムに行った。いつものようにジムの自転車をこぎ、スクワットと腹筋、ストレッチをし整体をして、シャワーを浴び、8時頃に1人でジムを出た。ジムの地下のガレージから車を出し、まだ比較的すいているベリヤール通りを空港に向けて走らせた。(オフィスはブリュッセル・ザベンテン空港の手前にあるのだった。)
車が空港に近づいた時、2台のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら、どこか異常を感じさせる勢いで自分の車を追い越して行った。8時20分だ。その時、ラジオのMusique 3のバッハの音楽がやむと、プレゼンターが「ただいま、ザベンテン空港の出発階で爆弾が2発爆発した様子です。詳細はまだ不明です」と告げた。
会社に到着すると、遠くで、近くでパトカーや救急車のサイレンの音が響いている。同僚とこの話をしている時、9時ごろにEU本部のあるシューマンから一つ手前のマールベークの地下鉄の駅でも爆弾が爆発したことが判明した。ついさっきまで自分がいたジムは、マールベーク駅の入口が面したロワ通りの裏側にある。
そうする内、社内通知メールが一斉に送られて来て、
「皆今日はできるだけブリュッセル市街には行かないように、できれば早く帰宅して家で仕事をしなさい」
と告げる。職場の同僚のほとんどは、ブリュッセルから10キロ以上離れたルーバンやメヘレン、アントワープから通勤している。「ブリュッセル市街には行かないように」と言われても、ブリュッセルの町中に住んでいる自分はどうすればいいのか。ブリュッセルの外側の比較的平和な地方都市に住んでいる同僚たちが急にうらやましくなる。
夜が近づいて、皆が帰って行く様子なので、だんだんと心細く淋しい気持ちになってきた。亭主のグリのことも心配なので、早く帰りたい気もするが、市内の公共交通がストップしているので、渋滞が心配になる。渋滞の中で自爆テロにあったら身動きがとれないと思うと、少しでもリスクを減らしたい。夜が更けるにつれ、グーグルマップで渋滞を示す赤い部分が少なくなってきた。いつもの帰り道、EU本部前からマールベークの地下鉄駅前を通るロワ通りは封鎖されているはずで、迂回路のジェネラルジャック大通りはまだかなりな渋滞が続いているだろう。そこで、ブリュッセルの南に広がるソワーニュの森からカンブルの森伝いに気持ちの良い夜の並木道を車を走らせてゆっくりと帰った。家に帰ると、何故か夕食を取る元気もなく、そのままばったり寝てしまった。
最近、わけもなく「今日が自分にとっての最後の日か」という気分になることが多い。でも淡々と、丁寧に日々を過ごすしかない。カルペ・ディエム(日々の花を摘み取れ)である。
ブリュッセル・ザベンテン空港には、出張帰りでつい3日前に降り立ったばかりだ。いつものように、空港ビルの出発階の出口に車で迎えに来てくれる亭主のグリを待つ間、喉が渇いたので、出口付近のスタバのカウンターまでトランクを引きずって行き、アラブ系の2人の小太り兄さんに向かって、
「アイスコーヒーくれますか?」
と言う。兄さんが愛想よく、
「バニラ味かい?」
と聞く。
「ううん。ふつうのアイスコーヒー」
すると、横にいたもうひとりの兄さんが、
「クレーム・マキャートだろ」
と同僚にアドバイスする。
「だから、ふつうのアイスコーヒーだってば!・・・まあいいか、そのクレーム・ナントカちょうだい」
飛行機の中で良く眠れず疲れていたので、面倒くさくなってそう言う。
「スモール・サイズでいいかい」
「ええ」
「6.2ユーロ(約800円)」
(うへっ、高え〜、と心の中で毒づいた。)
つい数日前にそんなピント外れのやりとりをしたばかりのこのスタバの前で、昨日のテロ事件の3発の爆弾のうちの一つが爆発した。あのスタバのカウンターは跡形もなくなったが、もしかすると、話が通じなかったあの気のいいアラブ人の小太兄さんたち2人も吹っ飛んでしまったかもしれないと思うと、言葉もない。