うつ病・対人恐怖症・不定愁訴・慢性疲労を抱え、お医者さんに相談しても、あまり効き目のない栄養剤を処方される位が関の山であった私は、人並みに社会生活を送るために、しかたなく代替医療の様々なテクニックを試してみることになった。最も直接的な効果があるように思えたのは、ヨガ、野口式整体、気功だったが、それら全ての基礎に呼吸法があることが分かってきた。
たとえば、気功には静気孔と動気功があるが、前者は単なる呼吸法、後者は呼吸法に動きを載せたものである。動きが先にあるのではなく、始めに呼吸ありきなのだ。動きは呼吸による気の出入を助け、入った気を体内に循環させるための補助の働きをするのではないだろうか。太極拳も、合気道も、新体道も、気流法も、空手もアウトカムが違うだけで根本は同じなのだろう。
在日中国人の赤松子著「
入門気功術」は、さまざまな気功の基本的なテクニックを、目的別に解説している。特に、時間のない人にとっては、どこでもできる静気孔のさまざまなバリエーションが記されているのがありがたい。前述の原久子著「
呼吸を変えれば人生に奇跡が起こる」では、座っても寝てもできる呼吸法の姿勢のバリエーションを紹介しているが、赤松子著「
入門気功術」ではさらに、立ってかかとを上げ下げする簡単呼吸法(これだけで、気功の効果があるらしい)や、寝たままでできる「太湖椿気功」、「吐納功」、「内養功」等を紹介している。これらはそれぞれ姿勢は少しずつ異なるが、意守丹田し腹式呼吸を行うと言う基本は全く変わらず、それぞれ、癌の治療・予防や消化器を強くするなどの効果があるらしい。そこで、時によって(肩こりや食べすぎで)あるひとつの姿勢が難しいときは、このうちの別の姿勢に切り替えながら、とにかく呼吸法を続けると言うことができた。
ヨガは、代替治療の中で私が最も早く試したもので、またその効き目が最も劇的なものだった。特に、アシュタンガ・ヨガの太陽礼拝を5セッションほどやった後は、ほんとうにしゃきっとして、意識を覆っていた雲が急に晴れて、周囲を見渡せるような気がすることもある。(まあ、ふだんの私の意識が、いつも五里霧中にあると言うことの証明かもしれないが・・・。) これほど効果があっても、20分ほどのかなりハードな運動をやるにはまず別のヨガをやって元気を出すことが必要なほどで(笑) 、しかも、狭い我が家で毎日続けるのは結構大変だ。ということで、太陽礼拝は、出勤前の早朝や週末にジムに行ったときに、元気があればやることにした。アシュタンガ・ヨガの解説書を色々読んだ中では、綿本彰著「
DVDで始めるパワーヨーガ」の中の太陽礼拝の解説がとても分かりやすかった。綿本彰が同著の中で言っているように、アシュタンガ・ヨガの第一の目的もまた、呼吸を深めることのようだ。
「体を動かさず、呼吸のみを行おうとすると大変難しいものですが、逆に体を動かしながら呼吸していくと、簡単に深めることができます。
ヨーガの根本にあるのは呼吸であり、呼吸を深めるための補助動作としてさまざまなポーズがある―そう考えて動いていくと、呼吸は自然に深まり、ひとつひとつの動作も呼吸に合わせて丁寧になっていくことでしょう。動きを主体としてヨーガを行うよりも、呼吸を主体としてそれに合わせて動いていくという認識で行うと、同じポーズでも得られる効果は段違いに大きくなります。」(p.12)
ただアシュタンガ・ヨガの場合は、腹式呼吸と胸式呼吸を組み合わせて行う。出典は忘れてしまったが、肺は自分では伸び縮みできないため、呼吸をするためには、肺を囲む胸骨や横隔膜を広げたり縮めたりする必要がある。たしかに、横隔膜を動かす腹式呼吸だけではなく、胸骨を動かす胸式呼吸をも組み合わせると、それだけ呼吸が深くなりそうではある。
ところで、呼吸法の威力を身をもって実証しているのは、「
自在力―呼吸とイメージの力で人生が思いのままになる」の著者、塩谷信男だろう。塩谷信男の提唱する正心調息法は、丹田に呼吸を集めるという点では原久子の瞑想呼吸法と似ているが、丹田呼吸の間に、ふつうの深呼吸を挟むという方法を取っているのがユニークだと思う。間にふつうの深呼吸を挟む理由は書いてはいないが、丹田呼吸に慣れない人でも続けやすいように、著者が試行錯誤の結果に生み出した方法はないかと想像した。そして、この著作当時、著者はすでに九十を越えているが、文章はクリアで分かりやすい。また、1905年生まれなので、今102歳と言うことだがご健在だそうだ。
この本には呼吸法のさまざまな効用が実例を挙げて示されているが、呼吸法を続けながら痛みのある患部に気を循環させると効くと言うので、ちょうど痛んでいた四十肩の部分に気を集めて循環させようとしたら、翌日肩が腫れ上がって眠れないほどになってしまった。未熟者が見よう見真似でやるとこのような結果になったわけだが、ともかく何らかの効果があることが良く分かった。
さて、ヨガ、気功、呼吸法のどの本にも共通して書かれていることは、とにかく毎日少しずつで良いから、長く続けるということである。このような意味で、最も簡単に出来る呼吸法だけは毎日必ず続け、基盤を作り、時に応じてヨガや気功で変化を楽しむというのが私には合っているようだ。呼吸法を続けていると、敷居が高くなかなかやる元気がなかったヨガの太陽礼拝が、比較的気軽に出来るようになったというメリットがある。
なお、これを書いた後、最近ヴィッパサナ瞑想法の情報を探しているときに出会った素晴らしいブログ「
瞑想と精神世界」にも、呼吸法のことが紹介されているのを見つけた。ブログの著者の読書量はものすごく、呼吸法に対する狭い私の認識が一気に広がってしまった。現在の呼吸法実験期間中ここから勉強できる情報も入れて、さらに最適な呼吸法を考えよう。
赤松子 著
入門気功術
ベースボールマガジン社 816円 (税込)
綿本彰 著
DVDで始めるパワーヨーガ
双葉社 1297円(税込)
塩谷信男 著
自在力―呼吸とイメージの力で人生が思いのままになる
サンマーク出版 600円 (税込)